子宮内膜症(EM:Endometriosis)
◆ 子宮内膜症とは
本来は子宮の内側にしか存在しない子宮内膜が、子宮以外の場所で増殖、剥離を繰り返す病気で、増殖した組織は子宮内膜と同じように生理のときに脱落し、出血を起こします。それがおなかの中にたまって炎症を起こし、痛み、癒着の原因になります。症状が進んでいくとかなり激しい生理痛を感じるようになります。 子宮内膜症ができやすいのは、骨盤に守られている下腹部の内側、腹膜、子宮、ダグラス窩、腸、直腸、卵巣の内部、子宮の筋肉層などが挙げられ、稀にへそや肺にも発生することがあります。 できて間もない子宮内膜症の細胞は、MRIやCT、手術でも見つけることが難しいといわれています。
子宮内膜症の原因
◆ 原因がはっきりしない子宮内膜症
子宮内膜症が発生する原因として現在有力視されている仮説としては、子宮内膜移植説で本来排泄され、膣を通って体外に排出される生理の血液が卵管の方に逆流し、お腹の中に出てしまい、排出されずにとどまってしまうというもの、もうひとつは体腔上皮化生説と言われ、腹膜が何らかの原因で子宮内膜に変化し、子宮内膜症になってしまうというものですが、まだはっきり解明されていません。
子宮内膜症の症状
◆ 症状は激しい生理痛
排卵痛や生理前にも腹痛を覚えることがありますが、かなり強い生理痛だと考えて下さい。子宮内膜症も女性ホルモンの変化によって増殖するため、生理の回数を重ねるたびに強くなり、腹痛だけではなく、肛門や膣の奥も痛むようになり、嘔吐や悪心が伴う場合もあります。 生理になると便が緩くなる人が多いのですが、子宮内膜症だと更に下痢になりやすく、生理時の生理痛が重くなるばかりではなく、生理以外でも下腹部痛を起こすようになります。子宮内膜症がダグラス窩にできていると性交痛も伴い、膣の奥が痛むことがあります。子宮内膜症になると、生理時の出血が異常に多くなり、レバーのような塊も出てきます。生理がだらだらとながびいたり、不正出血が続くこともあります。腸に子宮内膜症ができている場合、生理時に下血をしたり、癒着を起こしていると腸閉塞の危険も伴います。
漢方(中医学)で考える子宮内膜症
◆ 肝と腎の機能失調
漢方において子宮内膜症は、「肝(かん)」「腎(じん)」の機能失調と考えます。
漢方で言う肝とは、全身の「気(き)」や「血(けつ)」などの流れのバランスを調節している場所です。ストレス等で肝の機能が低下すると「気滞(きたい)」と呼ばれる気の流れの滞りがおこります。気滞のために子宮外で内膜が増殖すると考えられます。また、この気滞のために「瘀血(おけつ)」と呼ばれる血の滞りがおこり、月経不順や月経困難を引き起こします。
気滞には気の流れを良くする「疏肝理気(そかんりき)」の作用のある漢方や、血液の流れを良くする「活血化瘀(かっけつかお)」の作用のある漢方をもちいます。
また漢方で言う腎とは、西洋医学で言う腎臓の機能(水分の調節)をしている以外に、免疫機能、生殖機能に関係している場所です。
腎の機能が低下したために、本来、子宮内で増殖するはずの内膜が子宮外で増殖してしまうと考えられます。腎の機能が低下している時は、虚弱体質であることが多いので、それを改善する漢方を用います。
漢方での治療では、根本治療として肝と腎の状態を良くすることと、痛みなどの対処療法として瘀血を取り除くように血流を改善します。また月経の出血が多すぎる場合や不正出血がある場合には、対応する漢方を併用します。
西洋医学での子宮内膜症
子宮内膜症にはいくつかの子宮内膜症群があり、それらを総じて子宮内膜症と言われています。現段階では5種類の子宮内膜症群が発見されていますが、まだ発見されていない子宮内膜症もあると言われています。
腹膜子宮内膜症(腹膜病変)
腹膜病変とも呼ばれる最も基本的な子宮内膜症で、腹膜や臓器の表面にできます。
大きさは極めて小さく、何箇所かに散らばっていて癒着しやすいと言われています。痛みが激しく活動性のある病変ですが、線維化し、白っぽくなった古い病変はあまり痛みを感じません。また、できたばかりの内膜症は見ただけでは、ほとんどわかりません。
卵巣チョコレート嚢胞(のうほう)
卵巣に子宮内膜症ができると、袋ができて中に血液がたまり、それが溶けたチョコレートに見えることから卵巣チョコレート嚢胞(のうほう)と呼ばれています。
深部子宮内膜症(深在性病変)
深部子宮内膜症は、発見されてまだ10年弱の比較的新しいもので、それまでは診断できずにいました。性交痛や排便痛を伴い、痛みも強くでます。ダグラス窩(子宮と直腸が癒着している部分)にできることが多く、腹膜の表面から少し中に入り込んだ場所にできます。ダグラス窩は、立ったり座ったりするときに腹腔内で一番底になるくぼみの部分で、世界的にも発見しづらく、手術も困難で、直腸に穴を開けてしまう危険性もあるため高度な技術が必要です。
内診や直腸診でこの内膜症を見つけることができるのは、よっぽど熟達した医師でなければ難しく、他の内膜症と併発していても深部子宮内膜症に気づかない場合もあります。
子宮腺筋症
子宮腺筋症は子宮筋腫との見分けが非常に難しい病変で、子宮内膜によく似た組織が子宮の筋層内にできてしまい、所々盛り上がっているものや子宮筋層全体に入り込んで広がってしまうものもあります。
子宮筋腫とも似ているところがあり、筋腫の場合は、こぶができますが、腺筋症の場合は、こぶは見られず子宮全体が徐々に大きくなり、固くなっていきます。子宮筋腫と紛らわしいため、摘出してはじめて子宮腺筋症と診断されることもあります。
専門的分野から見ると、子宮内膜症とは発生の仕方が違いますので、別なものとして考えられています。部分的に盛り上がっている病変の場合は、その部分だけを取り除きますが、多少病変が残ってしまいます。子宮全体の大きさが変ってしまっているものは、子宮を摘出するしか方法はないと言われています。
子宮筋腫や子宮内膜症と合併していることも多く、子宮は大きくなっていないのに、筋層の中で病変が進んでいる場合もあります。
他臓器子宮内膜症
子宮内膜症全体の3%ほどです。全身のどこでも発生する可能性があります。最も大変なのが肺で、肺内部に発生するタイプは月経時に喀血し、胸膜や横隔膜に発生するタイプは月経随伴性気胸を起こします。他にも、へそ子宮内膜症や、出産時の会陰切開の時にできた傷に子宮内膜が移植してしまう会陰子宮内膜症もあります。下血や下痢が症状となる直腸内部に及んだ直腸子宮内膜症は、がんと間違われる心配がありますが、組織検査をすれば区別できます。診断は、それぞれに特有な症状が月経期に決まって起こることが目安となります。場所によっては、手術で取りきれないことも多いようです。
記事監修
猪越 英明(Hideaki Ikoshi)
- ・元 東京薬科大学薬学部
中国医学研究室 准教授 - ・医学博士
- ・薬剤師
宮下 洋輔(Yosuke Miyashita)
- ・薬剤師
使われる漢方薬
◆ 月経不順、月経痛の漢方
- 逍遙顆粒(しょうようかりゅう)
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効能・効果
冷え症,虚弱体質,月経不順,月経困難,更年期障害,血の道症,不眠症,神経症
※ 血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことです。
- 加味逍遙散(かみしょうようさん)
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効能・効果
体質虚弱な婦人で、肩がこり、疲れやすく、精神不安などの精神神経症状、ときに便秘傾向のある次の諸症:冷え性、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道証。
- 婦宝当帰膠B(ふほうとうきこう)
効能・効果
冷え症、貧血、生理不順、生理痛、腰痛、腹痛、肩こり、頭痛、めまい、のぼせ、耳鳴り
- 芎帰調血飲第一加減
(きゅうきちょうけついんだいいちかげん) -
効能・効果
血の道症、産後の体力低下、月経不順
- 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
- 効能・効果
のぼせ症で、血色はよく、下眼ケンが充血し、頭痛、肩こり、めまいなどがあって冷えを伴い、左下腹部に充実した抵抗、圧痛を認めるものの次の諸症:
月経不順による諸種の障害、月経痛、月経困難、帯下、更年期障害、痔疾
◆ 虚弱体質を改善する漢方
- 参茸補血丸(さんじょうほけつがん)
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効能・効果
虚弱体質、肉体疲労、病後の体力低下、胃腸虚弱、食欲不振、血色不良、冷え症
- 瓊玉膏(けいぎょくこう)
効能・効果
食欲不振、肉体疲労、虚弱体質、病後の体力低下、胃腸虚弱、血色不良、冷え性、発育期
- 参馬補腎丸(じんばほじんがん)
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効能・効果
虚弱体質、肉体疲労、病中病後、胃腸虚弱、食不振、血色不良、冷え症
◆ 出血に対応する漢方
- 芎帰膠艾湯(きゅうきょうがいとう)
- 効能・効果
体力中等度以下で、冷え症で、出血傾向があり胃腸障害のないものの次の諸症:
痔出血、貧血、月経異常・月経過多・不正出血、皮下出血