子宮筋腫(uterine fibroids)
◆ 子宮筋腫とは
子宮筋腫は良性疾患なので命に別状はありませんが、子宮筋腫にかかる女性は、とても多いと言われています。子宮筋腫による月経痛によって仕事や家事を休むだけにとどまらず、激痛により救急車で運ばれる患者さんもいます。
子宮筋腫によっては貧血がひどくなり、めまいや動悸を引き起こすだけでなく、ほかの臓器に負担をかけ、臓器の機能低下、免疫力の低下もおこる場合もあります。
また、子宮筋腫は不妊の原因になったり、可能性は高くありませんが、ごくまれに悪性腫瘍の一種である「子宮肉腫」が見つかることがあります。良性疾患だからといって子宮筋腫を軽視するのは大変危険です。
子宮筋腫の原因
◆ 原因不明の子宮筋腫
子宮筋腫が発症する原因は明確ではありませんが、女性ホルモン、特にエストロゲン(卵胞ホルモン)の影響で子宮筋腫が大きくなることは知られています。赤ちゃんや幼稚園児、小学生には子宮筋腫は全く見当たらず、高校生、大学生になると散見されるようになり、30代後半から40代になると急激に増えますが、これはその年代に症状が出たり、ガン検診を受ける人が多く、そのタイミングで見つかることが多いためだと思われます。
子宮筋腫の症状
◆ 主な症状は月経時におこる
子宮筋腫の一般的な症状で多いのは、主に月経痛、月経困難症や過多月経です。不正性器出血が頻繁に起きたりするほか、強い月経痛が起こります。
子宮筋腫が大きくなってくると、周囲を圧迫する症状が出てきます。典型的なのは膀胱圧迫症状で、トイレが非常に近くなります。さらに大きくなると便通異常(便秘)になったり、周囲の臓器を圧迫する症状がでることもあります。
筋腫のできた場所や大きさによっては自覚症状がなく、健康診断で貧血を指摘されて初めて気付くこともあります。
子宮筋腫の種類
子宮筋腫の種類は、子宮のどこに筋腫ができるかによって分類されます。
筋層内子宮筋腫
子宮の筋肉の中にできる筋腫で、筋腫の中ではもっとも多いタイプです。
大きさは様々で、大豆大のものから、握りこぶし大、鶏卵大のものが複数できるのが一般的です。
小さいものだと症状も痛みもほとんどありませんが、じょじょに子宮筋を押しのけ大きくなり、子宮内膜を圧迫し、子宮内くうが変形して子宮の収縮が妨げられ、過多月経や月経困難症を引き起こします。
漿膜下子宮筋腫
子宮の表面膜の下にできる筋腫です。筋腫が子宮から外に向かって成長し、子宮の表層にできるものと、子宮から突出するものがあり ます。きのこのように子宮から突出するようにできる筋腫は、茎で子宮とつながってしまい、ねじれて激痛を生じることもあります。
粘膜下子宮筋腫
子宮内の子宮内膜の下にできる筋腫で、発生頻度は子宮筋腫全体の約1割と少ないのですが、一番症状が重いのがこのタイプです。
筋腫が子宮内部に向かって成長するため、子宮内膜の面積が広がってしまいます。筋腫が小さくても月経量が非常に多くなり、子宮内膜が変形します。これによって受精卵が着床しにくくなり、不妊の原因につながります。
また、子宮の壁と細い茎でつながる「有茎粘膜下筋腫」になることもあります。
漢方(中医学)で考える子宮筋腫
◆ 子宮筋腫は血流が悪い瘀血(おけつ)
漢方において子宮筋腫は痛む・しこる・黒ずむという特徴から「瘀血(おけつ)」と呼ばれる血の滞りと考えられます。月経痛が酷いことが多いため、『桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)』などをもちいます。貧血傾向のある方は『婦宝当帰膠B(ふほうとうきこう)』など月経痛と貧血改善の両方の改善が望めるものをもちいます。また不正出血や月経過多の場合には、『芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)』などを併用します。
西洋医学での子宮筋腫の治療
子宮筋腫が見つかっても、症状が無い場合は特に治療はせず、定期検診で筋腫が大きくなったかどうか、症状が出てきたかどうか経過観察をします。
治療が必要と判断された場合は薬物療法と手術療法があり、その人の年齢、症状の程度、出産の希望、病巣の範囲などに合わせて治療法が選ばれます。
手術療法には、筋腫のみを取り除く子宮筋腫核出術と、筋腫を子宮ごと取り除く子宮全摘出術があります。薬物療法や子宮筋腫核出術では再発の可能性もありますが、妊娠することは可能です。
記事監修
猪越 英明(Hideaki Ikoshi)
- ・元 東京薬科大学薬学部
中国医学研究室 准教授 - ・医学博士
- ・薬剤師
猪越 洋平(Yohei Ikoshi)
- ・鍼灸師
- ・按摩マッサージ指圧師
- ・国際中医専門員
- ・中医手技療法士
- ・医薬品登録販売者
- ・元NHK学園 漢方・経絡講座講師
使われる漢方薬
◆ 月経痛に用いる漢方
- 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
- 効能・効果
のぼせ症で、血色はよく、下眼ケンが充血し、頭痛、肩こり、めまいなどがあって冷えを伴い、左下腹部に充実した抵抗、圧痛を認めるものの次の諸症:
月経不順による諸種の障害、月経痛、月経困難、帯下、更年期障害、痔疾
- 婦宝当帰膠B(ふほうとうきこう)
効能・効果
冷え症、貧血、生理不順、生理痛、腰痛、腹痛、肩こり、頭痛、めまい、のぼせ、耳鳴り
◆ 出血傾向に用いる漢方
- 芎帰膠艾湯(きゅうきょうがいとう)
- 効能・効果
体力中等度以下で、冷え症で、出血傾向があり胃腸障害のないものの次の諸症:
痔出血、貧血、月経異常・月経過多・不正出血、皮下出血